研究内容(配位アシンメトリ)
新学術領域研究 配位アシンメトリ:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学(領域代表:塩谷光彦)(計画研究)「非対称金属配位場を有する超分子系の構造・物性・反応に関する理論研究」, 江原正博 (2016年-2021年)において、江原Gが実施した代表的な協力研究をまとめます。
Metal-Macrocycle Framework (MMF)におけるオレフィン移動反応の反応機構
東京大学・塩谷グループでは、パラジウム錯体のマクロサイクル自己集合系でMMFが構成され、光学活性分子のジアステレオ選択的な吸着や触媒分子の固定化など様々な機能が実現されています。最近、MMFの空間制御によって光反応がスイッチすることが発見されました。
我々は、実験と協力して、反応活性サイトの生成機構や光反応がスイッチする機構を明らかにしました(J. Am. Chem. Soc. 2018)。またオレフィン移動反応がアルキル機構で進行することやPdへの水素移動が律速段階であることを理論的に明らかにし、実験で観測される同位体効果(1,2 D-シフト)を説明することに成功しました (Chem. Asian. J. 2021)。
π拡張系Pt錯体の燐光発光の熱耐性と芳香族性の相関
大阪大学・直田グループでは、様々なπ拡張系配位子をもつPt錯体が開発されており、燐光発光の波長制御、耐熱性に関する研究がなされています。
我々は、実験と協力して、このπ拡張系Pt錯体の励起状態にはMLCT状態、MC状態、MECP状態が存在すること、Pt錯体の燐光発光の耐熱性はMECPの無輻射遷移と相関すること、さらに耐熱性はπ拡張系のPtに隣接する芳香族性に逆相関することを理論的に明らかにしました。(Chem. Eur. J.)
凝縮相Agナノクラスターの電子アシンメトリー
奈良先端大学・中嶋グループでは、凝縮相Agナノクラスター(Ag29(DHLA)12)で円二色性や円偏光発光が観測されました (Chem. Commun. 2017)。最近、このAg ナノクラスターの基本構造がキラリティーを有することが発見され、キラルカラムで分離されたそれぞれのエナンチオマーについてミラー対称なCDスペクトルが観測されました。
我々は、実験と協力して、このクラスターのコアであるAg13(3-)が超原子構造(Superatom)の電子構造を持つこと、HOMOはコアのP軌道と配位子、LUMOはコアのD軌道から形成され、CDスペクトルが表面の配位子のヘリカルな吸着構造・電子状態に由来していることを明らかにしました。(Chem. Sci. 2020)