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Publications研究業績

生きものが機械でもいいじゃない
(生物物理2021年61巻2号原稿)

 

「生物は積木細工ですね.量子力学のような直感をこえる難しいことは何もありませんね.そのうち脳のことなどもわかってしまいますね.」,大沢文夫さんは湯川秀樹博士からこう言われ,生きものらしさを追求する研究をしようと思ったという(大沢文夫:「生きものらしさ」をもとめて).大沢さんが著書で紹介されているゾウリムシの自主性や自発性の研究はとても魅力的で,生きものってすごいなあと思う.他方,私はこうも思う.生きものらしさって必須かなあ,生物と非生物,線引きする必要があるのかな,生きものが機械でもいいのでは,と.まさに「生物機械論」的な物言いでお叱りを受けるかもしれないが,私の正直な気持ちである.

私は高等な生きものより下等な生きものが好きで,ゾウリムシも好きだけどバクテリアがより好みである.バクテリアは栄養を与えるとどんどん増える.その様子をみていると,生きものというより機械に思えてくる.もっと高等な生きもの,例えば昆虫だって,私からみると外部の刺激を感知して応答するロボットのようである.生命の神秘とかじゃなくて,こんなよくできた機械はどうやってうまれたのだろう,という興味がある.私は生きものに魅せられているけれど,よくできた機械としての魅力に惹かれているのであり,その仕組みを知りたいのである.

私の上記の生命観は,学問的バックグラウンドのためかもしれない.1分子イメージングに衝撃を受けて大学院の途中で生物物理学に転向したけれど(生物物理学会は私が学生時代に入会した唯一の学会です),私の基盤は化学,特に分子なのである.還元主義と言われるかもしれないが,分子のレベルで徹底的に解析して理解したいという欲求が強い.また,新しい分子をつくることができる化学への憧れもある.有機合成はドロップアウトしたけれど,タンパク質なら生きものがつくってくれるので私でもできるかなと考えている.

自然が進化の過程でうみだした優れた生物機械を詳細に調べるだけでなく,積極的な改造や人工物との融合(サイボーグ)で天然ものを凌駕できないか.もし自在につくることができれば,その仕組みを理解できたと言え,さらに社会に役立てることもできるのではないか.これが私の目下の研究目標である.いまはモータータンパク質といった分子の機械を対象にしているけれど,いつかはバクテリアも使い,よくできた機械である生きものの仕組 みを解き明かしていければと思う.

飯野亮太,Ryota IINO 自然科学研究機構分子科学研究所,教授