大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター CIMoS

メンバー

秋山 修志/階層分子システム解析研究部門

秋山 修志
秋山 修志
教授/センター長
AKIYAMA, Shuji

生物時計タンパク質が24時間周期のリズムを奏でる仕組みを解き明かす

キーワード: 生物時計、生体リズム、時計タンパク質、遅く秩序あるダイナミクス、X線溶液散乱、動的構造解析

1997年京都大学工学部卒、1999年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、2002年京都大学 大学院工学研究科分子工学専攻博士課程修了、博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所基礎科学特別研究員、科学技術振興機構さきがけ「生命 現象と計測分析」研究員(専任)、名古屋大学大学院理学研究科講師/准教授を経て2012年4月より現職。2008年~現在理化学研究所播磨研究所客員研 究員併任。

TEL:0564-55-7363
E-mail:akiyamas@ims.ac.jp (@を半角にしてください)
キャンパス:明大寺地区
研究室サイト

研究概要

しばしばメディアに登場する「生物(体内)時計」という言葉、皆さんがそれを改めて意識するのはどのようなときでしょうか。渡航や帰国後に頻発する眠気、 だるさ、夜間の覚醒......、これら時差ボケの症状は、私たちが生物時計の奏でる24時間周期のリズムのもとで生活していることの証です。驚くべきことに、生 物は非常に巧みな方法で、24時間という地球の自転周期を生体分子の内に取り込んでいます。私たちの研究グループは、24時間周期の根源を分子科学的に解 明するという研究テーマに挑戦しています。

生物が体内に時計を宿している......、このことが認知されるようになったのは最近のことです。それまでは24時間周期のリズミックな生命現象が見つかって も、「地球の自転に依存した環境変化を計っているに過ぎない」と荒唐無稽な存在として扱われることもあったそうです。生物時計の実在性は後の数々の発見に より確固たるものになります。その一つはタンパク質時計の発見です。シアノバクテリアと呼ばれる生物の時計は、3つの時計タンパク質(KaiA、 KaiB、KaiC)だけで24時間を正確に刻むことができます。Kaiタンパク質とATPを試験管内で混合すると、KaiCはリン酸を付与された状態と 付与されていない状態のあいだを24時間周期で振動します。この発見により、24時間周期のリズムを刻むタンパク質時計の存在が広く認められるようになり ました。

一方、時を刻む仕組みの分子科学的理解は進んでいません1)。Kaiタンパク質時計を例に挙げれば、そのダイナミクスは最長24時間(104.94秒)に及ぶ幅広い時間領域に分布しています。タンパク質分子の運動においても時空間には階層性が認められ、大規模な構造変化ほどより時間を要することが知られています。とはいっても、溶液中を漂うKaiタンパク質が相互作用するダイナミクスはせいぜい10-2~101秒のオーダーですし2,5)、私たちが解明したKaiCの分子鼓動も24時間を要するほど劇的かつ繁雑ではありません3,4)。これまでの概念の積み上げでは、「タンパク質分子」という素材で24時間という遅いダイナミクスが実現されている理由を説明できそうにありません5)

もう一つの謎が周期の温度補償性です。これは生物時計に普遍的に見いだされる特徴で、時計の発振周期が温度の影響をほとんど受けません。遅い反応(長い周 期)は効率の悪い化学反応を挙げることで説明できるように一見思われます。しかし、そのような反応系は大きな活性化エネルギーを有し、温度の上昇に従って 著しく加速されるのが一般的です。生物時計のからくりに迫るためには、「遅いダイナミクス」と「温度補償性」という一見排他的な2つの性質を同時に説明しなければならないのです。

試験管内で再構成できるKaiタンパク質時計は、24時間周期や温度補償性を分子科学的に解明する絶好の研究対象と言えましょう。私たちの研究グループで は、Kaiタンパク質時計の生化学的な活性測定はもとより、X線結晶構造解析やX線溶液散乱を相補的に利用した動的構造解析2,3,6)、赤外や蛍光等による分子動態計測3)、 計算機を用いた実験データのシミュレーションなどを行うことで、分子時計の実態解明に取り組んでいます。また、生物時計の研究を支える特殊な実験装置や解 析ソフトウェアについても独自開発を進めています。このような研究活動を通して、多くの皆さんに生物、化学、物理、制御工学、計算科学を巻き込んだタンパ ク質時計研究のフロンティアを体験して頂ければと思います。

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KaiCの分子鼓動3)。フィードバック制御下にあるATPase活性(A)をペースメーカーに,KaiCのリン酸化状態(B)やリング状の6量体構造(C)がリズミックに変動する。KaiAやKaiBはKaiCの分子鼓動に呼応して離合集散し(D)、系の振動をより頑強なものとしている。

■参考文献

  1. 秋山 修志,近藤 孝男, "KaiCタンパク質による概日時間", 細胞工学,30, 1269-1276 (2011).
  2. S. Akiyama, A. Nohara, K. Ito and Y. Maéda, "Assembly and Disassembly Dynamics of the Cyanobacterial Periodosome" Mol. Cell, 29, 703-716 (2008).
  3. Y. Murayama , A. Mukaiyama , K. Imai, Y. Onoue, A. Tsunoda, A. Nohara, T. Ishida, Y. Maéda, K. Terauchi, T. Kondo and S. Akiyama, "Tracking and Visualizing the Circadian Ticking of the Cyanobacterial Clock Protein KaiC in Solution" EMBO J., 30, 68-78 (2011).
  4. 秋山 修志,向山 厚, "時計タンパク質KaiCの概日性分子鼓動" 実験医学29, 1281-1284 (2011).
  5. S. Akiyama, "Structural and dynamic aspects of protein clocks: How can they be so slow and stable?" CMLS 69, 2147-2160 (2012).
  6. 秋山 修志, "タンパク質によって操られている体内時計" 「放射光が解き明かす驚異のナノ世界」,講談社ブルーバックス(2011).

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