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生命・錯体分子科学研究領域
錯体触媒研究部門 准教授
「キラル分子」。それは、私たちの生活になくてはならないものです。
「キラリティー」。それは、私たちの生命を特徴づける性質のひとつです。
「キラリティー」とは、三次元にある物質がその鏡像と重ね合わすことができない性質のことです。そのような性質をもつ分子を“キラル分子”といいます。
建物のどこに「窓」を設置するかが採光や通風に大きな影響を及ぼすように、原子団を三次元空間のどこに配置するかで、その分子さらには物質の性質は大きく変化します。これは、私たちの生命活動が、縦・横・高さで規定される三次元の空間に適切に配置された“キラル”分子の集合体により支えられていることに由来しています。
私たちの社会に欠かすことのできない物質・材料にキラリティーを組み入れること、それを可能にする一連の方法論を開発することは、次世代の純粋化学と応用化学の両面、そして材料科学において極めて大きな意味を持ちます。
私たちのグループでは、キラル機能性物質開発への応用展開を最終目標に、現在、その基盤づくりに取り組んでいます。独自のキラル分子をデザインし、その合成に向けて独自の合成手法を開発し、独自に合成したキラル分子の新たな機能の創出を目指して、日々研究を進めています。
当グループは、2014年6月1日、分子科学研究所にて発足し、この初夏に12周年を迎えました。私は愛知県で育ち、これまで多くのご縁に恵まれ、名古屋、シカゴ、ボストン、仙台で研究に携わる機会をいただきました。その後、再び地元愛知県に戻り、三河・岡崎の分子科学研究所で研究室を主宰する機会をいただけたことは、この上ない喜びです。ご指導を賜りました諸先生ならびに共同研究者の皆さまに、心より御礼申し上げます。
昨年度は、一昨年度に引き続き、分子科学研究所で取り組んできた研究成果を取りまとめ、学術誌への投稿を継続した1年となりました。課題推進PIとして参画したJSTのムーンショット型研究開発事業では、取りまとめ期間を経て、有機合成化学に自動有機合成システムと知能拡張技術を融合する新たな研究の方向性を提示することができました。分子研で開始した研究課題は、グループメンバーの真摯な取り組みと多くの皆さまからのご支援に支えられ、当初の想定を上回る展開を見せています。特に、2020年頃から推進してきた有機合成・有機物理化学・結晶工学・計算科学・情報科学の融合研究は大きく進展し、「有機合成のマルチモーダル化による精密合成科学」という新たな研究領域の創出に向けて歩みを進めています。
本年度は、総研大生1名を新たに迎え、総勢9名の体制で研究活動を進めます。これまでの研究成果を世界へ発信するとともに、世界にまだ存在しないキラル分子の創製と、その基盤技術の確立に挑戦してまいります。様々な分子が容易に入手できる時代となりましたが、匠が素材と真摯に向き合い、新たな技法を磨き続けるように、私たちも独自の手法を開発し、独自の分子を創り出し、その先に新たな機能性物質の創成へとつなげていきたいと考えています。
分子科学研究所は、1975年に大学共同利用機関として創設されました。以降、全国各地の大学から多数の研究者と協力し、様々な共同研究が進められています。例えば、2001年の野依先生のノーベル賞受賞につながったBINAPの開発は、分子科学研究所における共同研究の代表的な成果です。
1988年には、我が国最初の大学院大学として、大学共同利用機関に総合研究大学院大学が設置され、以降、分子科学研究所では、分子科学コースに所属する大学院生の教育が行われています。また、他大学の大学院学生を特別共同利用研究員やインターンシップ生として受け入れ、他大学の大学院生が研究活動を行う場としても重要な役割を果たしています。
当グループもその一翼を担えるよう、研究・教育ともに一層精進してまいります。
2026年6月吉日
儀恵 記