分子科学研究所平本グループ

研究内容

 有機半導体は、分子研名誉教授である、井口洋夫先生によって創始され、すでに、有機ELディスプレイが実用化されている。研究段階にあるのが、有機トランジスタ、有機太陽電池である。このような有機半導体デバイスにおいてブレイクスルーを起こすには、分子の配列制御、高純度化、pn制御、新規材料のデザイン、界面物性の解明などの、有機半導体の基礎科学を推進することが必要不可欠である。ここでは、我々のグループが行っている研究について紹介する。

(1)p-i-n接合を持つ有機太陽電池の研究

 有機太陽電池は、近年変換効率の向上が著しく、シリコン系セルの次に来る、次世代太陽電池の最有力候補である。有機半導体は、異種の有機半導体を混合することによって、はじめて光電流を発生できる。有機版p-i-n接合のコンセプトは、1991年に平本教授が提案した。これは、共蒸着による混合接合i層を持つという観点から、世界初のバルクへテロ接合型電池であるとの位置づけがなされており、現在の有機太陽電池の主流となっている。

参考論文:Appl. Phys. Lett., 58, 1062 (1991).

(2)有機半導体の高純度化

 有機半導体の真の機能を引き出すには、シリコンと同レベルの超高純度化技術の確立が必要である。我々は、C60を単結晶としてとりだすことで、セブンナイン以上の超高純度化に成功し、それをp-i-n太陽電池に組み込むことによって、シリコン系セルに匹敵する短絡光電流20mA/cm2と世界最高変換効率5.3%(当時)を観測した。

参考論文:Mol. Cryst. Liq. Cryst., 491, 284-289 (2008).

(3)ドーピングによる有機半導体のpn制御

 ドーピングによるpn制御は半導体エレクトロニクスに必須の技術である。我々はフラーレンやフタロシアニンなどの有機半導体に不純物を微量に加えることで、自在にp型化、n型化することに成功した。またそれらの有機半導体を用いて、pnホモ接合有機太陽電池の作製にも成功した。このpn制御技術は他の代表的な有機半導体についても同様の結果が得られることを証明している。

参考論文:Electronics, 3, 351 (2014)., Appl. Phys. Lett., 98(7), 073311 (2011).

(4)ドーピングを利用したタンデムセルの作製

 有機半導体への精密ドーピングによるpn制御技術を駆使して、共蒸着膜中に電圧加算タンデム型太陽電池を作製することに成功した。シングルセルと比較して、タンデムセルでは開放電圧が二倍程度向上することを観測した。本成果は、タンデム型有機太陽電池の素子設計における指針を示すものである。

参考論文:Org. Electron., 14, 1793 (2013).

(5)有機太陽電池へのppmレベルの極微量ドーピング効果

 有機太陽電池の活性層に不純物をppmレベルで極微量にドーピングすることに成功した。極微量ドーピングにより、多数キャリアが増加、内蔵電位が増大し、曲線因子、短絡電流密度が向上することを明らかにした。

参考論文:Org. Electron., 27, 151-154 (2015).

(6)電流横取り出し有機太陽電池の作製

 有機単結晶を用いることで、電荷を横方向に取り出す有機太陽電池の試作に成功した。同時に電極間距離を変えることで、横方向の電荷の飛程を観測した。

参考論文:Org. Electron., 41, 118-121(2017).

(7)新コンセプト有機太陽電池~水平交互多層接合~

 移動度の高いドナー、アクセプター材料を用いて、ホール、電子をミリメーターのマクロな距離で水平方向に取り出せることを証明した。さらにドナー、アクセプターを多層積層することで、バルクヘテロ接合(ブレンド接合)の代わりになる得る「水平交互多層接合」という新コンセプト有機太陽電池を実証した。

参考論文:ACS Appl. Energy Mater., 2, 2087–2093 (2019). プレスリリース

(8)有機単結晶への極微量ドーピング効果とホール効果測定

 有機単結晶成長技術と超低速蒸着技術を組み合わせて、1 ppmの極低濃度でドーピングしたルブレン単結晶を作製し、ホール効果シグナルを検出することに世界で初めて成功した。その結果、有機単結晶のドーピング効率は24%と、同じ物質のアモルファス膜の1%にくらべて格段に高性能であることが分かった。本研究はシリコン単結晶ウェハーを用いたエレクトロニクスと同様の、有機半導体単結晶ウェハーを用いた有機単結晶エレクトロニクスという新しい分野を創造することにつながる成果である。

参考論文:Adv. Mater., 29, 1605619 (2017). Appl. Phys. Lett. 115, 113301 (2019) プレスリリース

(9)有機単結晶太陽電池

 高移動度のルブレン単結晶上にドーピングでpn接合を積層し太陽電池を作製した。さらにルブレン単結晶中で生成した励起子が長距離拡散によってpn界面に到達し、電流生成することを証明した。

参考論文:Org. Electron., 64, 92-96 (2019)

(10)有機太陽電池の高効率化に向けた界面構造制御

 有機太陽電池においては電子ドナー/アクセプター(D/A)界面において電荷が発生することにより発電する。そのD/A界面近傍のナノ構造を制御することで、光電変換に最適な界面構造の探索を行っている。

参考論文:Org. Electron., 55, 69-74 (2018).

(11)高結晶性界面による開放端電圧ロスの抑制

 高結晶性・高移動度のドナー・アクセプター分子を用い、有機太陽電池の電圧損失を無機太陽電池と同等の水準まで抑制することに成功した。さらに高い開放端電圧を得るためには、ドナー/アクセプター界面近傍の3分子層以下の非常に薄い領域の結晶性が重要だということを明らかにした。

参考論文:Appl. Phys. Lett. 115, 153301 (2019). プレスリリース

(12)ドーピングによるドナー/アクセプタ界面の電子準位接続制御

 電子ドナー/アクセプター(D/A)界面でのフェルミ準位の一致による電子準位接続と光電変換性能との相関を明らかにした。さらにその電子準位接続をドーピングにより制御することで、有機太陽電池の出力電圧を向上させることに成功した。

参考論文:J. Phys. Chem. C, 122, 5248-5253 (2018)J. Phys. Chem. Lett., 9, 2914-2918 (2018).

(13)単一分子有機太陽電池

 電子・ホールともに移動度の高い両極性の有機半導体分子を用い、ドーピングでpn接合界面を作製した。この太陽電池では、ドナー・アクセプターを用いないにも関わらず、高い電荷分離効率を示した。

参考論文:Org. Electron., 71, 45-49 (2019).

(14)新規ノンフラーレンアクセプタ分子の開発

 有機太陽電池の光電変換効率は近年急激に向上し17%を超えた。その主な要因は、アクセプタ材料にフラーレン以外の光吸収が大きい半導体分子を用いたことによる。我々の研究室でも、結晶性が高く、光吸収、電子輸送特性に優れたノンフラーレンアクセプタの開発を進めている。

平本教授の有機太陽電池に関する解説スライド集
・part1 (PDF)
・part2 (PDF)
・part3 (PDF)
・part4 (PDF)
・part5 (PDF)
・part6 (PDF)


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